大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸地方裁判所姫路支部 昭和59年(モ)104号 判決

債権者(異議被申立人) 友善生コンクリート株式会社

右代表者代表取締役 道岡辰義

右債権者訴訟代理人弁護士 前田知克

同 天野泰文

同 幣原広

同 冨永敏文

債務者(異議申立人) 法旨筆夫

〈ほか二名〉

右債務者ら訴訟代理人弁護士 西垣立也

同 八代紀彦

同 佐伯照道

同 天野勝介

同 辰野久夫

主文

一  債権者と債務者ら間の当裁判所昭和五九年(ヨ)第一四号仮処分命令申請事件について当裁判所が昭和五九年二月三日になした仮処分決定を認可する。

二  訴訟費用は債務者らの負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  債権者

主文同旨

二  債務者ら

1  主文一項掲記の仮処分決定を取消す。

2  債権者の右仮処分申請を却下する。

3  訴訟費用は債権者の負担とする。

第二当事者の主張

一  申請の理由

1  債権者は生コンクリート(以下生コンという。)の製造販売を業とする会社であり、債務者姫路生コンクリート協同組合(以下債務者姫路生コンという。)は姫路周辺に存在する生コン製造販売を業とする者の団体であり、債務者法旨筆夫は債務者姫路生コンの代表理事であり、債務者武中実は債務者姫路生コンの事務局長である。

2(一)  債権者は、もと大東土木建設株式会社(通称大東生コン。以下大東土木という。)の社名で生コンの製造販売をしており、その原料のバラセメントを訴外琴丘産業株式会社(以下琴丘産業という。)から、琴丘産業はこれを訴外宇部産業株式会社(以下宇部産業という)から、宇部産業は訴外宇部興産株式会社(以下宇部興産という)からそれぞれ購入していた。

その後大東土木は一時操業を停止していたが、昭和五六年三月友善生コンクリート株式会社と社名を変更して操業を再開し、従前どおり琴丘産業との間にバラセメントの継続的購入契約を締結し、老朽化していた設備を近代的設備に作り替え、通産省よりJISマークも得て生コンの生産態勢を整えた。

(二) 債務者姫路生コンは、姫路市及びその周辺の生コンの販売につき販路、価格などの統制を図っており、既設の生コンプラント以外の新設生コンプラントを認めない方針をとっており、債務者らは、債権者の社名変更、操業再開、生産態勢の整備を新設生コンプラントであると主張した。

(三) 債務者らは債権者に対し、次のような操業を妨害する行為をした。

(1) 債務者らは、従来債権者と琴丘産業との間にバラセメントの継続的売買契約があり、このため債権者は宇部興産からバラセメント用サイロの貸付を受けていることを知りながら、昭和五六年八月一三日付文書で宇部興産大阪支店に対し債権者の操業再開阻止に協力するよう申入れ、このため債権者は琴丘産業からバラセメントの納入を停止され、これに対し宇部産業から債務者姫路生コンにバラセメントの納入を妨害しないよう申入れたが無視された。

(2) 昭和五六年八月一三日運輸一般労働組合員約五〇名を債権者プラントへ赴かせ、操業停止を申入れさせた。

(3) 昭和五七年一二月初め頃から現在に至るまで氏名不詳の数名の者をして債権者所有のタンクローリー車の後を付けさせ、債権者プラント内及びその周辺をうろつかせ、バラセメントの購入、生コンの積出し、タンクローリー車の正常な運行を妨害した。

(4) 昭和五八年一月頃から同年九月二六日頃まで訴外播州警備保障株式会社(以下播州警備保障という。)の従業員をして債権者所有のタンクローリー車の後を付けさせ、その正常な運行を妨害した。

(5) 昭和五八年九月一日頃訴外大和ハウス工業株式会社(以下大和ハウスという。)姫路支店に対し、債権者から生コンを購入すれば全国的に連絡をとって大和ハウスの工事現場に生コンが入らないようにすると申入れたため、債権者は大和ハウスから生コンの購入を断わられた。

(6) 昭和五八年九月一日頃訴外株式会社正光(兵庫県飾磨郡夢前町所在、以下正光という。)に対し、債権者の生コンを購入しないよう圧力をかけた。このため債権者は正光から生コンの購入を断わられた。

(7) 昭和五八年九月二六日午前一一時頃播州警備保障の従業員二名をして債権者所有のタンクローリー車の後を付けさせ、右両名を訴外東備生コン株式会社(岡山県一日市所在)の工場構内に不法に侵入させて刑事事件を発生させた。

(8) 昭和五八年一〇月二二日債務者姫路生コンの従業員を訴外水島宇部産業株式会社(以下水島宇部産業という。)の水島セメントセンターへ行かせたので、債権者の運転手が運転して行ったタンクローリー車を同所で自動計量機にのせた際、水島宇部産業の従業員から債務者姫路生コンの者が来ているから積込みできないと断わられ、空車のまま姫路に帰らねばならなかった。

(9) 債権者は、琴丘産業からバラセメントの供給を受けられないため、昭和五八年一二月六日神戸地方裁判所姫路支部からバラセメント引渡の仮処分決定を取得し、琴丘産業からバラセメントの供給を受けられるようになり、琴丘産業の仕入先である宇部産業もこれに協力していたところ、債務者らは債務者姫路生コンの傘下一五工場をして右両社に対するバラセメントの供給を停止させた。

(10) 昭和五九年一月一七日姫路駅前のビルで宇部興産大阪支店長、同姫路営業所長、債務者法旨、同武中、他に債務者姫路生コンの理事三名で話合いをした際、債務者らは宇部興産の右二名に対し債権者にバラセメントを供給しないよう要求し、「裁判所の仮処分決定などは問題でない、対抗する手段はいくらでもある、右仮処分の債権者代理人前田弁護士は悪徳弁護士である」などと告げ、その後、宇部興産に圧力をかけるため明石方面の同社関係の生コン注文に対してもその供給を停止させた。

(11) 債権者は、昭和五八年一二月八日債務者法旨、同武中を業務妨害、威力業務妨害罪に該当するとして告訴し、さらに債務者らに対しこのような違法な行為を停止するよう警告し、かつ損害賠償の請求をしたが、債務者らは依然として妨害行為を継続している。

3(一)  債務者らのこれらの行為は、生コン事業の独占、価格の吊り上げを企図し、このため債権者の生コンプラントによる操業を廃業に追込もうとするもので、通常許される自由競争の範囲を著るしく逸脱した違法な行為であって、民法上の不法行為に該当する。

(二) 債権者は、これらの妨害行為のため本来通常の価格で購入できるバラセメントを特別な経路で高価に購入しなければならず、現在に至るまで莫大な損害を蒙っており、今後もこのような行為が継続されるならば債権者の受ける経済的不利益は計り知れないものがあり、速やかに違法行為を停止せしめる必要がある。

4  よって、債務者らの妨害行為の禁止を求める別紙申請の趣旨記載のとおりの仮処分申請を認めた本件仮処分決定は正当なので、その認可を求める。

二  申請の理由に対する認否と債務者らの主張

1  申請の理由1項の事実は認める。

同2項の事実のうち、

(一)は不知。

(二)は否認する。

(三)(1)のうち、債務者らが主張の継続的売買契約の存在、サイロの貸付を知っていたこと及び債務者姫路生コンが主張の申入れをしたことを認め、その余は否認する。

同(2)のうち、主張の労働組合員の行為は不知、その余は否認する。

同(3)は否認する。但し、債務者姫路生コンは播州警備保障に対し債権者のバラセメントの買付、生コン出荷状況につき調査を依頼したことはある。

同(4)は否認する。但し、前項のとおり調査を依頼したことはある。

同(5)のうち、大和ハウスの行為は不知、その余は否認する。

同(6)のうち、正光の行為は不知、その余は否認する。

同(7)は否認する。

同(8)のうち、水島宇部産業の行為は不知、その余は否認する。

同(9)のうち、仮処分決定があったこと及び琴丘産業のバラセメントの供給開始と宇部産業の協力した事実を認め、その余は否認する。

同(10)のうち、主張の日時場所で話合いをしたことを認め、その余は否認する。

同(11)のうち、告訴されたことは不知、警告及び損害賠償の請求のあった事実を認め、その余は否認する。

同3項(一)(二)の事実は否認する。

2(一)  債務者法旨は債務者姫路生コンの代表理事であり、また訴外姫路西協生コン株式会社(同社は債務者姫路生コンに所属している。以下姫路西協生コンという。)の代表取締役であって、右代表理事もしくは代表取締役として行動しているのであり、個人としてのものではない。

債務者武中もまた債務者姫路生コンの職員として行動しているにすぎない。

したがって、債務者法旨、同武中に対する本件仮処分申請は不適法である。

(二) 本件仮処分申請のうち、債務者らに対し債権者がセメントを買受け、または買受けたセメントを運搬するのを実力で妨害してはならないことを求める部分については、債務者らはこれまでそのような実力による妨害行為をしたことはないし今後もそのような行為をするおそれはないから、仮処分の必要性がない。

(三) また、債務者らに対し債務者らの所属する協同組合、工業組合を通じて間接にセメントメーカー及びセメント販売店らに脅迫を加え、あるいは圧力をかける等して、債権者がこれらの者からセメントを買受ける行為を妨害してはならないことを求める部分については、独占禁止法違反を主張するのであれば同法違反の排除措置は公正取引委員会のみがなし得るにすぎず、民法上の不法行為を主張するのであれば不法行為に基づく差止請求は公害事件に関して一部学説がこれを認めるのみで他の学説判例ともこれを認めていない。

したがって、右仮処分申請は理由がない。

5  よって、本件仮処分決定の取消及び債権者の仮処分申請の却下を求める。

第三疎明《省略》

理由

一  申請の理由1項の事実は当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、同2(一)項の事実(但し、商号変更の日は後記のとおり)の外、大東土木は相当額の負債を抱え倒産したため昭和五四年に一時操業を停止していたのを債権者の現在の代表者道岡辰義が大東土木の株式を買取り会社の譲渡を受けたこと、同会社は昭和五六年四月営業を再開し同年五月に現商号に変更したのであるが、従来の設備は老朽化していて効率が悪く危険でもあったので、隣地を買取り同地上に旧部品を一部使用し主として新部品を使用して生コンプラントを作ったことが認められる。また、《証拠省略》によれば、同2(二)項の事実を認めることができる。以上の認定を左右するに足りる証拠はない。

二  ところで、債権者は、債務者らにより操業を妨害されたと主張するので検討する。

1  従来大東土木と琴丘産業との間にバラセメントの継続的売買契約があり、このため債権者は宇部興産からバラセメント用サイロの貸付を受けていることを債務者らが知っていたこと、債務者姫路生コンは昭和五六年八月一三日付文書で宇部興産大阪支店に対し債権者の操業再開阻止に協力するよう申入れたことは当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、申請の理由2(三)項(1)のその余の事実を、《証拠省略》によれば、同2(三)項(2)の事実を認めることができる。

また、債務者姫路生コンが播州警備保障に対し、債権者のバラセメントの買付、生コン出荷状況につき調査を依頼したことは債務者らの自認するところであり、右事実と《証拠省略》によれば、昭和五七年一二月初め頃から昭和五八年一〇月三日頃まで播州警備保障の従業員が債権者所有のタンクローリー車の後を付け、これを停車させて行先を尋ね、乗用車を使って追越しや急ブレーキをかけて進路妨害をし、債権者プラント周辺をうろついたり写真をとったりしたため、債権者従業員はこれらの者の行動に注意を払う必要から正常な運転を妨害され、バラセメントの購入、生コンの積出しにも影響のあったことが、《証拠省略》によれば、同2(三)項(5)の事実を、《証拠省略》によれば、同2(三)項(6)の事実を(但し、月日は昭和五八年九月一六日頃である)、《証拠省略》によれば、同2(三)項(7)の事実を、《証拠省略》によれば、同2(三)項(8)の事実を認めることができる。

さらに、債権者主張のとおり昭和五八年一二月六日仮処分決定があったこと、琴丘産業は債権者に対しバラセメントの供給を開始し仕入先の宇部産業もこれに協力したことは当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、同2(三)項(9)のその余の事実を認めることができ、昭和五九年一月一七日姫路駅前のビルで債権者主張の者らが話合いをしたことは当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、同2(三)項(10)のその余の事実を認めることができ、債権者が債務者らに対し違法行為を停止するよう警告し、かつ右行為につき損害賠償請求をしたことは当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、同2(三)項(11)のその余の事実を認めることができる。

以上の認定を左右するに足りる証拠はない。

2(一)  以上認定の事実によれば、債務者姫路生コンは姫路市及びその周辺の生コンの販売につき販路、価格などの統制を図り、既設の生コンプラント以外に新設の生コンプラントを認めない方針をとっており、債務者姫路生コン及びその余の債務者らは同会社の代表理事あるいは事務局長の立場にあるところからそれぞれ債権者により新設生コンプラントが作られたものであるとしてこれを廃業させる意図のもとに自らあるいは関係会社の従業員らに協力を求めて間接にときには直接実力で、債権者のバラセメントの購入、生コンの販売、運搬を妨害する行為を繰り返していることが認められる。

もっとも、《証拠省略》によれば、生コン業界においては昭和五四年頃から通産省の指導のもとに、事業の共同化、協業化、合併等企業の集約化が図られており、必要に応じ過剰設備の廃業を行なうなどの構造改善事業が推進されつつあり、新設生コンプラントが当該地区の需要状況からして需給バランスを長期にわたり混乱させ生コンの安定供給に悪影響を及ぼすおそれのある場合には、右新設生コンプラントの経営者に構造改善事業の趣旨を説明し、理解と協力を得る方法をとることが許されていることが認められる。しかしながら、債権者の生コンプラントについては前記のとおり全くの新設生コンプラントであるということはできないうえ、右プラント設置により周辺の生コンの需要バランスが長期にわたり混乱させるおそれのある状況を認めるべき証拠もなく、前記のように債務者らが債権者のバラセメントの購入、生コンの販売、運搬を実力で妨害したり、また組織の影響力をもってこれを阻止したりすることは、右構造改善事業の一環としてなされたとしても正当な範囲内のものではなく、通常の企業運営からしても自由競争の範囲を逸脱しているものであって、違法な行為であるというべきである。

(二)  そして、《証拠省略》によれば、債権者はこれらの妨害行為のため債権者に対しバラセメントを供給してくれる取引先の確保を図らねばならず、その価格は通常より高価で概ね姫路周辺を離れた遠隔地であるので運送賃も高く購入量としても不足するうえ、出来上った生コンの販売先も制約されるなど、その事業の運営につき多大の経済的不利益を蒙っており、今後も妨害行為が継続して繰り返えされさらにその損害が増大するおそれのあることが認められる。

三  以上によれば、債権者は債務者らに対し、著しい損害を避けるため仮処分によって右の如き違法な操業妨害行為の禁止を求める理由及び必要性があるものというべきである。

債務者らは、債務者法旨は債務者姫路生コンの代表理事、姫路西協生コンの代表取締役として、債務者武中は債務者姫路生コンの職員としてそれぞれ行動しているもので、いずれも個人として行動しているものでない旨主張するけれども前記認定事実及び前記疎甲第四号証、並びに弁論の全趣旨によると、債務者法旨、同武中と債務者姫路生コン、姫路西協生コンの関係並びに債務者姫路生コンと姫路西協生コンとの関係がいずれも債務者ら主張のとおりであることは認められるものの、同人らの行為は債務者姫路生コン、姫路西協生コンの代表理事、代表取締役あるいは職員として内部の決定に従った行為にとどまらず、同人ら個人としても債権者の生コンプラントの廃業を目論んで妨害行為をしているものと認められるから、右主張は採用できない。

また、債務者らは、債権者が債務者らによる操業妨害の禁止を求める部分は法的根拠を欠く旨主張するが、当事者間において権利関係について争いがあって一方の当事者に生ずる著しい不利益や損害を避け又は急迫な強暴を防止する必要がある場合には仮の地位を定める仮処分の申請をなすことが認められているのであって、本件においては前記のとおり債務者らが第三者に対し脅迫を加えたり圧力を加えるなどして違法な操業妨害行為を継続し債権者に多大の経済的損害を与えているのであるから、直ちに右損害の発生を防ぐため仮処分により右妨害行為の禁止を求めることが許されるのであって、債務者らの右主張もまた失当である。

四  よって、債権者の債務者らに対する別紙申請の趣旨記載のとおりの仮処分申請は理由があり、これを認めた本件仮処分決定は相当であるのでこれを認可することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 吉田秀文 裁判官 関野杜滋子 松下潔)

〈以下省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例